ストーリー(アメリカ編?)

by macteenさん(更新日:2009-03-25 14:44:12)

アリゾナでの生活が始まった。

僕は、ラスベガスで約一週間、カーニーとして過ごしたものの、まだ新たな職場への不安を拭いきれていなかった。

何しろ、お世辞にも、健全な人間の集まる場所ではないからだ。


ミニバスケットで働く同僚たちとは、なんとかやっていけそうだが、その他のカーニーたちについては、まるでわからない。

休憩の際にカーニバルの中を歩いていると、やたらとジロジロ見られる。

時折、メキシコ系のカーニーから、何やらスペイン語で野次が飛ぶ。

何を言っているかは理解できなかったけれど、むしろわからなくてよかった。

カーニバルには、多くの従業員がいる。ざっと見て、数百人はいると思う。

だけど、その中には、日本人はおろか、アジア系の人間は、一人もいなかった。

日本にいたときは、誰かと群れることなんて、どうでもよかったけれど、異人種の中にポンと放り込まれた自分は、驚くほど臆病だった。

何しろ、アメリカの刑務所映画に出てくるような連中がうようよいる。

いかついスキンヘッドや、不気味な笑いを浮かべる軍隊上がり、じーっとこちらに意味あり気な視線を投げかけるピアス野郎。

「ショーシャンクの空に」みたいに、ホラれそうになってはたまらない。

とにかく、早く自分の仲間を固めなければ、それが本音だった。


僕は、他のカーニーと同様、バンクハウスというトレーラーの一部屋を借りることになった。

カーニバルの裏の敷地には、広大な空き地のような駐車場が広がっていて、そこに、数十のトレーラーが並んでいた。

トラックで牽引されてきたこれらのトレーラーは、巨大な直方体のコンテナで、両側面にドアがずらりと並んでいる。

その各々が小さな部屋になっていた。

中には、夜行列車の寝台にあるようなベッドと、それと同様の着替えスペースがあるだけだ。

自分が、巨大なトレーラー群の中の一コマであることを痛感させられる。

まるで、巨大な巣に依存する働きバチだ。

でも、よく考えれば、タダで寝場所を提供してもらってるだけ有り難いのかもしれない。

仕事までの交通費もかからないし、目的通り、旅の資金を貯めるには、好都合だ。

僕が、給料から、住居代として月200ドルが引かれているのを知ったのは、ずいぶん後のことだった。


カーニーのほとんどは、僕と同様にバンクハウスに住み込みで働いていた。

彼らの大半は、家を持たない。

何しろ、一ヵ月おきに違う州へ移動するため、仮にアパートを借りても、ほとんど家には帰れないからだ。

金を持ってるカーニーは、キャンピングカーを買って、カーニバルと共にアメリカ中を移動する。

ちなみに、カーニバルは、3月から11月までがシーズンなので、みな12月から2月まではバカンスだ。

日本では考えられないライフスタイルだけど、カーニーは、冬は全く働かなくていいようだ。

こんな生き方をずっとしていたら、常に何かに追われ、ローンを払い終えるために日々を浪費する都会の生活が、馬鹿らしくなってしまうだろうと思った。



「おいトウキョウ、仕事行くぞ」

僕の教育係は、ショーティーだった。

カーニバルのユニフォームである、赤いポロシャツ、Dickiesのハーフパンツ、群青のエプロンを腰に巻いて持ち場に立つ。

「いいか、ゲームのルールは簡単だ。一ゲームは二ドルで、手持ちのボールは二つだ。二回ボールを放って、両方決まった場合だけ客の勝ちだ。つまり、一回目のシュートを決めても、二回目のシュートを外せばもちろん駄目だし、その逆も然りだ。とにかくたくさん客にゲームをさせろよ。じゃないと、金にならないからな」

僕は、ショーティーの説明にうなずきながらも、客を呼び込むくらい余裕だろうと、タカをくくっていた。

ラスベガスでもすぐに仕事を覚えたし、仕事を舐めていたのだ。

こんなちっちゃなオヤジに教えられなくても、客くらい取れるだろう。



だが、僕の目論見は見事に外れた。

何しろ、英語でなんて話しかければいいかさえ、わからなかったのだ。

通り過ぎる客に、ひきつった顔で「ハーイ」なんて言ったりするものの、まるで相手にされない。

これじゃ、校門の前に立っている挨拶のおばはんと同じだ。

「バカ、何やってんだおれは。早く、声をかけなければ」

なんとか自分に喝を入れ、ジョイントの前を通った若者グループに声をかけた。

僕より幾らか若い、高校生グループだろうか。

「ちょっと、すいません。バスケットボール、やらないっすか?」

若者のうち一人が、ちらりとこちらを見る。

「おいおい、チャイニーズのカーニーが何か言ってるよ。李(リー)さん、おれら中国語わかんねーよ」

彼らは生意気な笑い声を立て、通り過ぎて行った。

――ぐぅ。こいつら。せっかく楽しいバスケットボールに誘ってやったのに。

それに、おれは李(リー)さんではない。

意気消沈した僕を見て、隣にいるショーティーが笑った。

「おーい、トウキョウ。一回断られたくらいで、へこたれちゃったのか」


結局、この日は、ロクに客を取れなかった。みっともなくて仕方なかった。

『ゲーム』では、『フード』のような仕事と違って、客から集めた金が『数字』としてモロに出る。

初日の結果は、ジェフ、ショーティー、ニックは五~六〇〇ドル、エディは四〇〇ドル前後、僕はと言えば、一八〇ドル前後だった。

このうちの二割が手取りだ。

炎天下に、十二時間立ちっぱなしで、三十六ドル。

時給にすれば、三ドル程度だ。

ニックが笑った。

「おまえ、馬鹿のエディより稼げないなんて、ほんと使えねーな」

年下のニックが憎たらしかったが、僕は言い返す言葉が見つからなかった。

僕は、無意味に天狗になっていた自分を恥じた。

そして、次の日からショーティーの教えに忠実に従おうと、心に決めたのだった。

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